冬眠中の熊が痩せている|今年の熊の行動とは?

今年は暖冬ですが、急に寒い日がやってきたり強風の日があったりと、体調を崩しやすい天候になっています。

そして、みなさんが予想している通り、熊が冬眠から早く起きてきそうです。

私が活動している岩泉町で長年、熊猟をしている猟師さんによると「冬の熊猟で獲った熊が痩せている」ということでした。

このようなことは珍しく、例年ではこの時期の熊は少し太っています。

昨年にお腹を空かせたまま冬眠してしまったので、このような事態になっているのと予想されます。

目次

熊の数が減るのではないか?

熊が痩せているということは「この冬は子熊が多く生まれない」ということです。

そもそも熊の出産時期はいつ?

ツキノワグマは、1~2月頃の冬眠中に出産します。

平均の出産仔数は1.86頭です1)

母熊は出産後すぐに授乳を開始。他の熊より1カ月くらい遅れて地上に出てきます。

ただ、母熊の栄養状態が着床や胎児の発育、出産などに影響してきます。

今の時期、母熊が痩せているのは栄養状態が良くないと言えるので、子熊が受胎せずに流れてしまいます

また、上手く受胎できても胎児が正常に発育できなかったり、出産に耐えられなかったり、出生後の成長できなかったりといった可能性が出てきます。

例年よりも子熊の数が減るので、当然ですが熊全体の数が昨年よりも減ります。

今年も熊はたくさん目撃される?

「熊の数が減る」と聞いて、動物愛護の観点から「かわいそう。どうにかできないのか?」と考える方、去年の熊の目撃数の多さから「今年は熊の被害が減るのでは?」とホッとする方、さまざまだと思います。

今の状況と今後の熊の行動を考えると、熊は今年の春も人里に下りてくるかと思います。

熊の今後の動きを予想する

お腹を空かせて少し早めに冬眠から起きた熊。山には餌が全然ないような状況です。

去年の秋も山に食べ物がありませんでしたが、冬の間に鹿とイノシシにほぼ食い尽くされてしまっているからです。

この春は、熊が飢餓状態になるほどに餌がないかもしれません。。

そうなると、熊は考え、思い出します。「人里に行けば何か食べ物があるかも」

嗅覚を働かせたり、今までの経験から「どこに食べ物があるか」と考え探します。

「そうだ!牛の餌ならばいつでもある」

ご存じの方もいるかと思いますが、実際に岩手県雫石町では、昨年6月から熊が毎日牛舎に来ていたところもあります。

“クマ出没の町”相次ぐ 目の前に遭遇…「8頭同時侵入」も カメラが捉えた一部始終/テレビ朝日「スーパーJチャンネル」

熊は牛舎に来て、サイレージ(牛の餌で、牧草や飼料作物を発酵させたもの)や家畜用飼料を食べます。

タイミングが悪いと、人と遭遇して事故につながることが予想できますよね。。

もう一つの餌は、里山によくあるコンポスト。

コンポストとは?

コンポストは、家庭から出る野菜のくずや卵の殻などを堆肥にする容器を指します。

簡単にいうと、人が食べ残したものを栄養のある土に変えるためのタンクみたいなものです。

自治体によっては「生ごみ処理機の助成金制度」を行っているところもあります。生ごみ処理機は乾燥や微生物分解などで生ごみを処理しますが、コンポストは微生物によって生ごみを分解、肥料にします。

「家庭から出た生ごみや落ち葉を肥料に」というのは、昔から行われてきた知恵の一つです。

熊は生ごみが入ったコンポストを器用に開けたり、掘り起こしたり、倒したりして食べます。

私たちに人間にとっては生ごみでも、お腹を空かせた熊にとってはご馳走に違いありません。

そして、さらに一番危険なのが民家への侵入です。

夕暮れの時間…お味噌汁の香りや焼き魚の匂い。民家から流れてくる香りは、温かな家庭の食卓を思わせるシーンです。

しかし、この良い香りに誘われて、熊が民家に侵入して食べ物を漁る事態も起こり得ます。

  1. 牛の餌を食べにくる
  2. コンポストを狙う
  3. 民家に侵入する

これが、この春、冬眠明けの熊がとるかもしれない行動です。

3月中旬頃から始まる春の味覚の訪れと熊

そうこうしているうちに、山から雪が消えてきて緑が戻ってきます。

ふきのとうから始まり、山野草を食べられるようになります。

自然も目覚めの季節。熊は山菜も大好きです。

ふきのとう、あいこ、しどけ、エゾニュー、山ふきなど、熊はお腹いっぱい食べます。

原生林の熊

山菜採りをしている私とはライバルですね!

そして熊は木の芽も大好きです。柳の新芽、ブナの木の新芽などを木に登ってたくさん食べます。

山菜採りの時期も終盤に入る5月の末になると、熊の大好物である根曲り竹のタケノコが一斉にでてきます。

柔らかく美味しいタケノコを食べられるだけ食べて、硬くなり美味しくなくなったら山ふきを食べます。

山ふきが食べられなくなったら、畑に下りてきて牛の餌の原料であるデントコーンを食べるようになります。

若いデントコーンはみずみずしく、熊にとってはジュースのようです。

この時期に熊に入られた畑は戦場と化します・・・。有害駆除が始まるのです。

時は過ぎ、秋になったら

山に栗やドングリなどが成る季節。熊は木の実を食べます。

山ぶどうや小桑も食べ、たくさん食べて太った熊から冬眠を始めます。

いつもと違うのは

今年がいつもと違うと予想されるのは、冬眠から起きた熊がすぐに家畜の餌やコンポスト、民家の周辺を徘徊すること。

これから4月末ごろまでは、熊が人里に来る可能性が高いという点です。

もちろん、熊の行動パターンは地域によって多少異なってきます。

熊はグルメで頭が良い動物なので、旬のものを美味しいときに食べます。

本当は熊も人が怖い

そして、熊は本当は民家や人の行動範囲が危険だと分かっています。

ただ、「背に腹は代えられぬ」で、民家まで来るのです。

熊にとって餌がないのは、人間でいうところの一文無しの状態と同じ。人であれば、泥棒に走るか、強盗をするか、詐欺などに手を染めるか・・・。

熊は生きていくために、危険なところであっても餌を探しに来なければならないのです。

だから人が油断してはいけない

熊に「人里にくるな」といっても無理な話です。

熊も生きることに必死。だからこそ、人間が油断せずに注意しないと事故になります。

昨年の熊は本当に増えたのか?

昨年は私も熊とバトルをしましたが、熊が増えているとメディアでも騒がれました。

ただ、本当に熊が増えたのか?には、疑問が残ります。

なぜかというと、岩泉での猟期の最初は「熊が山にいない」となったからです。

そこから考えるに、有害駆除で熊が獲られた影響が大きいのではないでしょうか。

人里に来て駆除される熊は氷山の一角で、山にはもっとたくさんの熊がいる…そんなイメージを持つ人も多いかと思います。

でも、実際はそうではなくて、多くの熊が人里に下りてきて駆除されてしまった。実は山にずっといた熊のほうが少ないのではないかと思います。

なので、「去年熊が増えた!」とは一概に言えない地域もあります。(少なくとも岩泉町や葛巻町はそうです。)

できれば山に行かない選択を

昨年の私の熊との格闘シーンを見て、ハラハラした方、私の行動に賛成できなかった方、心配してくださった方、自分ならもっと上手く逃げられる・戦えると思った方、熊にさらに恐怖感を抱いた方・・・さまざまだったと思います。

私は「熊が怖いと思う方は山に行かないこと」をみなさんにお伝えしたいです。

本来は敵同士ではない熊と人が鉢合わせてしまって起こる事故を減らしたいです。

今後の活動について

「では、原熊も山に入らなければ良いのでは?」といった意見もありますが、山菜採りやキノコ採りは、私の活動の一つです。

みなさまに美味しい旬の山の幸をお届けするために、今後も活動してまいります。

ただし、昨年の事故を踏まえて、しっかりと対策を行っていきます。

また、熊の被害に遭われる方が減るようにと、注意喚起を引き続き行っていこうと思っています。

原生林の熊

自然を愛し、熊や犬、猫などの動物を愛し、みなさまの笑顔のために活動してまいりますので、今後とも原生林の熊をどうぞよろしくお願いいたします!

参考文献

1)ツキノワグマの基本的な生体の理解/東京農業大学森林総合科学科

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