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熊による被害を含む遭難者捜索について|警察官が襲われる危険性も

熊による被害を含む遭難者捜索について

熊によると思われる遭難者を捜索中に、警察官が熊に襲われる危険性もあります。

市民の安全を守る警察官は、遭難者を捜索・救助しなくてはいけない。だけど自分たちが熊に襲われる可能性もある。そのようなときの対応をどうすれば良いのか、熊と格闘経験のある私(原生林の熊/佐藤誠志)が考察しました。

秋田県鹿角市などの事例を分析し、二次被害を防ぐための現場の課題や、警察と自治体、猟友会の連携体制の実情を明らかにします。

また、熊の習性に基づいた攻撃行動の背景や、海外の救助事例との比較を通じて、入山者が知っておくべきリスク管理の重要性もまとめます。

目次

熊出没エリアにおける捜索活動の現状と警察官が直面する危険性

山岳地帯での遭難者捜索活動は、険しい地形や天候の変化だけでなく、熊による襲撃という致命的なリスクと隣り合わせの状態で行われています。

警察官は市民の安全を守る職務を負いますが、野生動物の脅威に対して十分な対抗手段を持たずに現場へ入るため、二次被害の危険性が極めて高い状況にあります。

山岳遭難捜索における二次被害リスクの増大

近年、熊の生息域拡大や個体数増加に伴い、山岳遭難の捜索現場で救助隊員が熊と遭遇する確率が飛躍的に高まっています。遭難者が発生した場所は、すなわち熊の生活圏である可能性が高く、捜索活動そのものが熊の縄張りを刺激する行為です。

特に、遭難者が熊による襲撃を受けていた場合、熊はその場所に留まり、獲物を守ろうとする強い執着を見せます。このような状況下で捜索隊が接近すれば、熊は自らの所有物を奪われると認識し、排除行動として激しい攻撃を加えます。

捜索隊は遭難者を救助するという人道的な目的で動いていますが、熊にとっては侵入者に他なりません。この認識のズレが、予期せぬ遭遇戦を引き起こし、救助に向かったはずの警察官自身が被害者となる最悪のケースを招きます。

熊襲撃関連の捜索・業務中被害事例

発生時期場所状況概要
2016年5月秋田県鹿角市タケノコ採りの遭難者を捜索中の警察官が、遺体の搬送準備中に茂みから現れた熊に襲撃され重傷を負う。
2023年5月北海道福島町行方不明の女性を捜索していた警察官らが、山中で熊に遭遇。所持していた拳銃を発砲する事態に発展。
2024年5月秋田県鹿角市タケノコ採りで入山し行方不明となった男性を捜索中の警察官2名が、突如現れた熊に襲われ、顔や腕に怪我を負う。

従来の装備では対応しきれない突発的な遭遇戦

警察官の標準的な装備は対人制圧や犯罪捜査を主眼に置いており、巨大な野生動物との格闘を想定していません。警棒や拳銃は携行していますが、動きの速い熊に対して拳銃を的確に命中させ、即座に無力化するのは極めて困難です。

山林内では視界が悪く足場も不安定なため、有効な射撃姿勢をとることさえままなりません。発砲には厳格な法的要件があり、瞬時の判断が求められる緊急事態において、警察官の心理的な足かせとなることもあります。

熊撃退スプレーなどの携行も進んでいますが、風向きや距離によっては効果を発揮しない場合もあります。物理的な防具を持たない生身の警察官は、圧倒的な力を持つ熊の前で無防備に近い状態に置かれます。

警察官の受傷事故が社会に与える心理的影響

警察官

救助のプロフェッショナルである警察官が業務中に襲われるという事実は、社会全体に大きな衝撃を与えます。

「助けに来てくれるはずの警察官でさえ危ない」という認識が広まれば、山岳レジャーに対する恐怖心が増幅し、地域経済や観光産業にも深刻な影を落とすでしょう。

現場の警察官にとっても、同僚が傷つく姿を目の当たりにすることは、士気の低下やトラウマの原因となります(警察官も一人の人間ですので、当然のことですよね)。二次被害への恐怖から積極的な捜索活動が躊躇されるようになれば、本来救えるはずの命が救えなくなる可能性も出てきます。

このように、警察官の受傷事故は単なる労働災害にとどまらず、救助体制の根幹を揺るがす重大な社会問題として捉える必要があります。

安全管理意識の変革が必要か?

従来の捜索活動では「一刻も早い発見」が最優先とされてきましたが、熊の脅威が増大した現在では「隊員の安全確保」を前提とした活動への転換が求められるかもしれません。二次被害が発生すれば、捜索活動自体が停止し、遭難者の救助も絶望的になります。

現場指揮官は、熊の痕跡が見つかった時点で捜索を中断する、あるいはハンターの同行なしには入山しないといった、冷徹なまでの安全管理を徹底する可能性もあります。

もしもそういった判断をするとすれば、「精神論や使命感だけで危険地帯へ飛び込むことは、勇気ではなく無謀な行為」といった認識からです。

  • 組織全体としてリスク評価の基準を見直し、隊員の命を守るための具体的な手順を確立する
  • 市民・遭難者の安全を第一に考えてしっかりと準備をしたうえで行動する

どちらも必要なことだとは思います。

秋田県鹿角市などで発生した具体的な襲撃事案の経緯

秋田県鹿角市の十和田大湯地区などで発生した一連の熊襲撃事件は、捜索中の警察官が襲われるという衝撃的な展開を見せました。現場の状況と発生要因を分析することは、今後の対策を考える上で不可欠だと思います。

遭難者搬送中に発生した襲撃の具体的経緯

2016年や2024年に発生した鹿角市での事案では、いずれもタケノコ採りなどで入山し行方不明になった人物の捜索中に事故が起きています。特筆すべきは、遭難者の遺体を発見し、収容しようとしたタイミング、あるいはその直前で襲撃が発生している点です。

警察官や消防隊員が遺体に近づいた瞬間、近くに潜んでいた熊が突進してくるケースが報告されています。これは、熊が遺体を「自分の食料」として認識し、それを奪おうとする人間を排除しようとした行動であると考えます。

救助隊員たちは周囲を警戒していましたが、熊は音もなく接近し、一瞬の隙を突いて攻撃を仕掛けてきました。搬送作業という注意力が手元に向く瞬間を狙ったかのような狡猾な行動は、熊の知能の高さと執着心の強さを物語っています。

現場の地形と植生が視界を遮り反応を遅らせた要因

襲撃現場となった山林は、ネマガリタケなどの背の高い笹や藪が密生しており、視界が極めて悪い環境でした。大人の背丈ほどある藪の中では、数メートル先に熊が潜んでいても視認するのは不可能です。

警察官たちは、足元の悪い急斜面で藪をかき分けながら進まざるを得ず、熊の接近に気づくのが遅れました。熊は藪の中を音もなく移動する能力に長けており、人間が気づいた時には既に攻撃の射程圏内に入っています。

現場周辺での捜索活動における危険因子

危険因子内容とリスクの詳細捜索活動への影響
視界不良背丈を超える笹や藪が密生し、数メートル先の視界も確保できない。熊の接近を目視で確認できず、奇襲を許す主因となる。
遺体の存在熊が遺体を食料として確保している場合、強い執着心を持つ。遺体に近づく捜索隊を「略奪者」とみなし、攻撃性が極大化する。
地形の険しさ急斜面や足場の悪い場所が多く、迅速な退避行動がとれない。襲撃を受けた際、転倒や滑落のリスクが高まり、逃走も困難になる。

このような地形的要因は、人間の探知能力を著しく低下させ、熊にとって圧倒的優位な奇襲攻撃を可能にします。

開けた場所であれば対処の余地もあったかもしれませんが、視界ゼロに近い藪の中では、最新の装備を持ってしても防ぐのは困難です。

遺体への執着を見せる熊の特異な行動パターン

通常の熊は人間を避ける傾向にありますが、一度人間を襲って食べた熊、あるいは遺体を確保した熊は、人間を「危険な存在」ではなく「食料」あるいは「餌を奪う競争相手」とみなすようになります。

鹿角市の事例では、熊が遺体のそばから離れず、数日間にわたって執拗にその場に留まる行動が確認されました。これは「土まんじゅう」と呼ばれる、獲物に土や草をかけて隠す習性とも関連しています。

警察官が襲われたのは、まさにこの「所有権」を主張する熊の領域に踏み込んだためです。

この行動パターンを理解していなければ、捜索隊は無防備に死地へと足を踏み入れることになります。遺体がある場所は、最も危険なスポットであるという認識を強く持つ必要があります。

捜索救助活動における二次被害防止ガイドラインと課題

度重なる事故を受け、関係機関は捜索活動における安全管理基準の厳格化を進めています。警察官や消防隊員の命を守るためには、従来の常識にとらわれない新しいルールの運用が必要です。

警察庁および関係機関が定める安全確保の基準

警察庁や各都道府県警は熊出没時の対応マニュアルを改訂し、隊員の安全を最優先する方針を明確にしています。熊の目撃情報がある地域での捜索には、可能な限り猟友会のハンターを同行させることや、防護装備の着用を推奨しています。

二次被害防止のための基本原則

  • 目視情報の重視
    熊の目撃情報や新しい痕跡が発見されたエリアには、安全が確認されるまで立ち入りを制限する。
  • 複数名での行動
    単独行動を禁止し、常に複数名で相互に周囲を警戒しながら行動することで死角を減らす。
  • 音による威嚇
    鈴、爆竹、サイレンなどを活用し、人間の存在を絶えずアピールして偶発的な遭遇を防ぐ。
  • 早期撤退の決断
    危険を感じた場合や、天候が悪化し視界が確保できない場合は、躊躇なく活動を中断する。

航空隊のヘリコプターを活用した上空からの捜索や、ドローンを用いた事前の安全確認など、テクノロジーを活用して直接的な接触を避ける手法も導入しています。

しかし、広大な山林すべてをカバーするのは物理的に難しく、最終的には地上の隊員が足を踏み入れざるを得ない局面も多々あります。

ガイドラインは存在しますが、現場の状況に応じた柔軟かつ慎重な運用が常に求められるでしょう。

銃器使用に関する法的制約と現場判断の難しさ

警察官職務執行法において、武器の使用は正当防衛や緊急避難に該当する場合に認められます。しかし、実際に熊が襲ってきた瞬間に周囲の安全を確認し、威嚇射撃を経て、相手に向けて発砲するという手順を踏むのは至難の業です。

特に捜索現場では他の隊員が近くにいる混戦状態になるケースも多く、誤射のリスクも考慮しなければなりません。警察官が携行する拳銃の口径では、興奮状態の大型の熊を一度で止めるだけの制止力に欠けるという指摘もあります。

法的な裏付けはあっても、心理的・物理的なハードルが現場での即座の対応を躊躇させ、結果として被害を拡大させる要因の一つとなり得ます。

そこで必要となってくるのが、熊との距離を保つ(こちらに攻撃させない)ための長い棒です。

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熊撃退スプレーや防護装備の配備状況と有効性

二次被害防止のため、捜索隊員への熊撃退スプレーの配備が進んでいます。カプサイシンを主成分とするスプレーは、正しく使用すれば高い確率で熊を退散させられます。

しかし、有効射程は数メートルと短く、風向きによっては使用者がダメージを受けるリスクもあります。また、防刺チョッキの着用も行われていますが、熊の爪や牙の破壊力は凄まじく、完全な防御を保証するものではありません。

装備の充実は重要ですが、それだけで安全が担保されるわけではなく、あくまで「最後の手段」としての位置付けであると理解する必要があります。

捜索中断という苦渋の決断を下す際の基準

二次被害のリスクが高いと判断された場合、捜索活動の中断や打ち切りを決定します。これは、行方不明者の家族にとっては受け入れがたい通告であり、現場指揮官にとっても極めて重い決断です。

しかし、「救助者が新たな遭難者になってはならない」という鉄則の下、明確な基準を持って判断するでしょう。例えば、新鮮な熊の痕跡が多数ある、地形的に逃げ場がない、天候不良で視界がないといった条件が重なった場合です。

この基準をあらかじめ家族や社会に説明し、理解を得ておくことも、組織的なリスク管理の一環として重要だとは思います。

熊の習性と人を襲うメカニズムの理解

Kuma

敵を知ることは、身を守るための第一歩です。熊がなぜ人を襲うのか、その行動原理を生物学的な視点から理解することで、遭遇時の適切な対処や予防策が見えてきます。

食料としての認識と排除行動の違い

熊が人間を攻撃する理由は大きく分けて二つあります。一つは「突発的な防衛本能」による排除行動、もう一つは「捕食対象」としての攻撃です。捜索現場で多発するのは前者ですが、近年問題となっているのは後者のケースです。

通常、熊は人間を恐れますが、一度人間の味や人間が持つ食料の味を覚えた個体は、積極的に人間に近づくようになります。特に、遺体を食べた経験のある熊は、人間を「動きの遅い獲物」と認識する恐れがあります。

排除行動であれば、一撃加えて相手が動かなくなれば立ち去る場合もありますが、捕食目的の熊は執拗に攻撃を継続するため、被害はより深刻になります。

自分の獲物を守ろうとする強い執着心

熊は一度手に入れた食料に対して、異常なまでの執着心を見せます。これは厳しい自然界で生き抜くための本能であり、他の動物や同族に奪われまいとする行動です。

遭難者の遺体やリュックなどが熊によって確保されている場合、その周辺は「熊の所有地」となります。そこに捜索隊が近づくのは、熊にとって明白な「略奪行為」と映ります。

この時、熊は威嚇なしにいきなり攻撃に転じるケースが多く、その攻撃性は普段の比ではありません。捜索活動中に遺留品や遺体を発見した際は、周囲に熊が潜んでいる可能性が極めて高いと想定し、直ちに警戒態勢をとる必要があります。

遭遇時の距離と相手の動きによって変わる攻撃衝動

熊との距離は、生死を分ける重要な要素です。「クリティカル・ディスタンス(臨界距離)」と呼ばれる、熊が侵入を許容できない距離に入り込んでしまうと、熊は反射的に攻撃を選択します。

熊の季節ごとの活動特性とリスク

季節主な活動内容人間へのリスク特性
春(4月-6月)冬眠明けで空腹状態。山菜を求めて活動。タケノコ採りの入山者と活動エリアが重なり、遭遇率が最も高い。
夏(7月-8月)交尾期。行動範囲が拡大。オスがメスを求めて広範囲を移動し、予期せぬ場所に出没する。
秋(9月-11月)冬眠前の食い込み期。大量の食料を必要とする。食欲が旺盛になり、餌を求めて人里近くまで降りてくる攻撃性が増す時期。

藪の中での捜索は、知らぬ間にこの臨界距離を突破してしまうリスクを常にはらんでいます。人間が背を向けて逃げると、熊の「逃げるものを追う」という狩猟本能が刺激されます。

時速50km以上で走る熊から逃げ切るのは不可能です。遭遇してしまった場合は、目を逸らさず、ゆっくりと後ずさりして距離をとることが、攻撃衝動を抑制する唯一の方法です。

警察と自治体、猟友会の連携体制の実際

熊による被害を防ぎ、安全な捜索活動を行うためには、警察単独の力では限界があります。自治体や地元の猟友会との密接な連携体制を構築し、それぞれの専門性を活かした対応が必要です。

ある県の実話から

以前、北東北のある県では、熊による遭難者が発生していた際に、警察・消防・猟友会メンバーが同時に発動していたのを見ました。そのときに私は「あ、この県は素晴らしい」と思いました。

警察は遭難者捜索依頼を受けて、消防と猟友会にも協力を要請。それは非常に危険な現場であることを理解していたためだと思います。

その際の携行品
  • 警察・消防:木の棒や縦
  • 猟友会①:ライフルの自動銃
  • 猟友会②:散弾銃スラッグ弾の自動銃
  • 猟友会③:長い肢のついた槍

このときには、完全にリスクマネジメントがされていたと思います。

現場指揮本部における各組織の役割と責任分担

事案発生時には、現地に合同指揮本部を設置し、情報の共有と意思決定を一元化するとスムーズです。

警察は捜索の実動部隊を指揮し、自治体は法的な手続きや住民対応を担当、猟友会は野生動物の専門家として技術的な助言や実力行使を担います。

各機関の主な役割分担

  • 警察
    現場の封鎖、交通規制、遭難者の捜索・救助活動の実施、住民への避難誘導を行う。
  • 自治体
    地域住民への注意喚起、防災無線の活用、被害情報の集約、有害鳥獣駆除の許可手続きを担う。
  • 猟友会
    熊の痕跡調査、追い払い、捜索隊への同行護衛、状況に応じた駆除(発砲)を担当する。

この三者が有機的に機能することで初めて、安全な作戦立案が可能になります。しかし、指揮系統が一本化されていない場合、情報の錯綜や判断の遅れが生じ、現場の隊員を危険に晒すことになります。

日頃から合同訓練を行い、顔の見える関係を作っておくと、緊急時のスムーズな連携がしやすいです。

ハンター同行による護衛体制の確立と費用の問題

猟友会

捜索隊にハンターが同行し、銃を持って警戒にあたることは、最も有効な安全対策の一つです。しかし、これにはいくつかの課題があります。

まず、ハンターの多くはボランティアに近い立場で活動しており、長期間の捜索拘束は彼らの生活を圧迫します。また、誤射事故への懸念や、発砲時の法的責任の所在が不明確であることから、同行を躊躇するケースも少なくありません。

さらに、自治体から支払われる日当や手当が危険度に見合っていないという指摘もあります。持続可能な協力体制を築くためには、ハンターへの正当な報酬と、法的保護の整備を行政レベルで進める必要があります。

情報共有の遅れが招くリスクと迅速な意思疎通

熊の移動速度は速く、目撃情報は刻一刻と変化します。自治体に寄せられた目撃情報がリアルタイムで現場の警察官に伝わらなければ、隊員は知らずに危険地帯へ入ることになります。

無線通信の不感地帯が多い山間部では、通信手段の確保も課題です。GPSトラッカーを活用した位置情報の共有や、デジタル無線網の整備など、ハード・ソフト両面での情報インフラ強化が求められます。

組織の壁を越えたホットラインの開設など、迅速な意思疎通を可能にする仕組み作りも大切です。

地域全体で取り組むべき安全網の整備

警察や行政だけでなく、地域住民や登山者団体も含めた包括的な安全網の構築が必要です。例えば、入山者からの目撃情報をアプリで共有するシステムの導入や、登山道入り口での啓発活動などです。

また、電気柵の設置や藪の刈り払いなど、熊を人間の生活圏や捜索ルートに近づけない環境整備も重要です。「自分の身は自分で守る」という意識啓発と、それを支える社会的なシステムの双方が噛み合ってこそ、悲劇を減らせます。

実用的な携行品を備えることが大切

先ほど触れた、北東北のある県の事案ですが、リスクマネジメントができていたものの、携行品についてはさらに検討・改善の余地があります。

警察や消防の木の棒と盾

木の棒の代わりとして提案したいのが、熊撃退ポールです。2023年に私が熊と闘った際に使ったのも木の棒でしたが、このときの経験を活かして、一人でも多くの命を守るために考案したものです。

熊撃退4

盾やさすまたは重くて山では持ち歩けず、機能しません(そもそも、さすまたの主な用途は武器を持った不審者の動きを安全な距離から拘束するもので、熊には有効とはいえません)。そのため、軽くて長いポールが必要となります。

猟友会の装備

猟友会のライフルの自動銃は、熊との距離がある場合に有効です。また、熊との距離が近い場合でも、襲ってくるまでに時間があれば散弾銃スラッグ弾の自動銃は効果があるかと思います。

ただし、散弾銃スラッグ弾で失敗したときに隊員自らが怪我をしないためには、しっかりとした槍で熊の急所(脇、肺、心臓、首の頸動脈)を刺す必要がでてきます。そうしなければ、狂暴化した熊によって被害は拡大してしまうでしょう。

銃が普及する前の猟師(マタギ)は、穂先が厚い刃になっている熊槍で狩猟をしていました。ただ、現代でこのようなものを持ち歩くのは重くて難しく、銃刀法の問題もあり現実的ではありません。

そのときに必要となるのが熊撃退ポールです。

仲間や遭難者が襲われているとき

ただ、成すすべもなく、熊の驚異的な攻撃にやられっぱなしでいるしかないのか。また、「人を助ける」という使命感を持ち山に入ったのに、仲間や遭難者が襲われているのをただ見ているしかできないのか。そのようなことは絶対にあってはならないと思います。

警察や消防、猟友会のメンバーや遭難者など、現場で熊に人が襲われている状況では、銃は使えません。熊を狙っても外れる可能性があり、被害を受けている人に当たってしまう危険性が高いためです。

この猟銃すら発砲できない状況下で、どのようにするのが良いのか・・・が問題となります。

人が襲われている、早く助けなければならない、でも銃は使えない。そのような状況では、槍のような道具で熊の急所を複数人で刺す方法しかありません。

具体的には、熊撃退ポールを使い熊の鼻や眼、眉間といったところを刺し、瞬間的な痛みを与えてひるませ、襲われている人から離れさせる作戦です。

海外の獣害事件における救助隊員の安全確保策との比較

日本における熊対策は発展途上ですが、グリズリーなどの大型熊が生息する北米では、長年の経験に基づいた体系的な安全確保策が確立されています。

北米の国立公園レンジャーが携帯する標準装備

パークレンジャー

アメリカやカナダの国立公園で活動するパークレンジャーは、熊対策として強力なベアスプレーを標準装備として携帯しています。また、状況に応じてショットガンやライフルなどの銃器を携行する権限を持ち、定期的な射撃訓練や遭遇時のシミュレーション訓練を受けています。

彼らは「野生動物は危険である」という前提に立ち、十分な抑止力と自衛手段を持って任務にあたります。これに対し、日本の警察官は銃刀法などの制約から、同レベルの重装備で捜索にあたることは難しく、装備面での格差は明らかです。

熊生息地での捜索活動に関する厳格な手順

北米では熊による人身被害が発生した場合、そのエリアを即座に完全封鎖し、専門のワイルドライフ・マネジメントチームが介入します。彼らは熊を特定し、排除(安楽死または移送)するまで一般人の立ち入りはおろか、通常の救助隊の活動も制限するときがあります。

人の命を優先しつつも、二次被害を徹底的に避けるための手順が非常に厳格に運用されています。日本でもガイドラインは整備されつつありますが、現場の判断に委ねられる部分が多く、システムとしての厳格さにはまだ開きがあります。

住民と野生動物の分離を徹底するゾーニング管理

海外の国立公園では、人間が利用するエリアと野生動物の保護エリアを明確に分けるゾーニング管理が進んでいます。ゴミの管理も徹底されており、ベア・プルーフ(熊が開けられない構造)のゴミ箱の設置が義務付けられています。

日米の熊対策・捜索体制の比較

項目日本(本州以南)北米(グリズリー生息域)
携帯装備警棒、拳銃、スプレー(任意)大型スプレー、大口径銃器(必要時)
対応組織警察、消防、猟友会(民間委託)パークレンジャー、専門野生動物管理官
法的権限正当防衛等の限定的発砲危険排除のための広範な権限

その結果、熊が人間の食料の味を覚える機会を減らし、結果として人身事故のリスクを低減させています。

日本では山林と集落が隣接しており、ゾーニングが難しい面もありますが、緩衝地帯の整備や誘引物の除去など見習うべき点は多くあるかと思います。

捜索・救助にあたる警察や消防、猟友会の命も市民の命も大切

熊撃退

警察官・消防隊・猟師・市民…すべての命は平等に大切だと思います。

私たち市民は、自分の身を守ることが結果として救助隊員の命を守ることにもつながると意識して、「遭難しない」「熊に遭遇しない」ための対策をしっかりと行うべきです。

そのうえで、万が一のことが起こった際に、救助にあたる警察官や消防隊、猟友会メンバーがリスクマネジメントを十分に行い、自らの命を守る準備ができれば「助けに行ったのに自分が襲われた」といった事件が減るのではないかと思います。

原生林の熊

今後も、熊による被害が出ないよう、熊対策について発信していきます。

熊による被害を含む遭難者捜索について

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